森の石松外伝2 追記

今回のお芝居全体の感想です
飯塚雅弓が客演するとのことで初見となった岸野組ですが、期待以上におもしろい出来で仮に飯塚さんが出演していなくても楽しめたお芝居だと思います。
とはいえ、主に中小規模の劇場を中心にする劇団の多聞にもれず、この劇団も常連客にはわかる、お約束のネタなども数多くあるようでした。
あらすじはチラシから転載
『次郎長親分の代参で金毘羅様に刀を奉納し終わった石松は、道後温泉へ湯治に向かうが、謝って土佐へ向かう街道に紛れ込んでしまう。そこで出会った三人の旅人が突然忍びと思わしき者たちに襲われる。腕は立つらしいのに気が優しいのか襲撃者に留めをさせずに躊躇する一行の若侍。そんなことだからあなたは「とばれたれ」と言われるのですよとその若侍を叱咤する姉らしき女。実はこの若侍とその姉は連れの娘の護衛役で、娘には命を賭した使命があったのだ。果たしてその使命とは。そして襲撃者の正体は、、、。』
石松が岸野幸正。「よばちゃん」こと若侍が関俊彦。その姉「乙姉」が渡辺菜生子。使命を持つ娘「お小夜」が飯塚雅弓。襲撃者・伊予の忍び「八百八狸」の首領がくじら。この他にお小夜の幼なじみの正吉役の大倉正章さんらが絡んできます
あらすじで述べられてる、お小夜の使命とは「幕閣は呪い殺すために人柱になる」というもので、お小夜の死なれたくない正吉が説得を続けるうちに、やがて一族の名誉のためとお役目一途だったお小夜の心に変化が生じ、二人で愛に生きるストーリー。正吉の思いやお小夜の葛藤が後半のハイライトになります
時代考証は適当です。ある程度の時代性と歴史上の人物の名前やキャラクターを利用するって感じですね。ドラマの必殺シリーズなどにも通じるものがあるかもしれません。この辺は歴史好きの私には不満がありました。
人物設定についても、あまり深く考察されていない印象です。関俊彦演じる「よばちゃん」が若き日の坂本竜馬であったり、武市半平太がとんでもない役で出てきたりは設定上のジョークとしても、物語のキーでもあるお小夜の設定がいまいちよくわからず、どうにも物語に入り込めない。このお小夜ちゃん、実は一子相伝の秘術を受け継いだ呪術者であります。身分はちょっと不詳なんですがなぜか町人ぽい、これまた身分不詳でなにをしてる人か全然わからない幼なじみの正吉もなんとなく百姓には見えないんで町人なんでしょう。それでも、言葉遣いは武家の娘風で郷士である若侍なんかにも全然遠慮がない、むしろ上からものを言ってる印象さえ受けます。一応、台詞中で「修行のみに明け暮れていて世間を知らぬ」とか説明はせれているのですが、それでもちょっと違和感がありました
で、お小夜ちゃんがどういう環境で育ち、幼い頃から明け暮れていたという修行がどんなものだったのかが全然わからないんですね
正吉との関係も「たった一人の幼なじみ」で片付けられていて、二人の関係っていうのがピンとこないのです。これなどは二人の精神的な絆は物語上でも重要だと思うので、子供時代のエピソードもひとつくらいは欲しかったです
お小夜は独身なので子を産まぬまま秘術で人柱になってしまうと当然、一子相伝の秘術は途絶えてしまうのですが、そこを正吉につっこまれて「それは、しようがない」の一言で済ませるお小夜の豪腕ぶりにも唖然。だってねえ、家名のために犠牲になるのにねえ、一族滅亡じゃあ、意味ないじゃんねえ
さらには、お小夜の一族は元々は伊予に居たのですが、戦国時代に山内家に恩を受けたので土佐に移り住みました。だから伊予の狸たちに裏切り者と敵にされています。って、山内家が土佐に来たの関ヶ原の後じゃん。こういうのは、なんとかする気も無いのかもしれませんが、なんとかして欲しかった

そして、物語の肝は正吉一途な思いがお小夜の心を変化させていくことにあると思うのですが、揃いも揃って開明的な登場人物たちにかかると、なにやら、お小夜がヘンな宗教にでもハマってしまった女の子に見えてきちゃうんです。江戸時代ですからね、普通にみんな超自然現象なんか信じてると思うのですが・・・石松なんか「いまどき、呪いなんか」みたいな事まで言っちゃうわけです。白眉はクライマックスで正吉が言い放つセリフ「効くかどうかもわからない呪いに、お小夜が命を捧げるなんて我慢できねえ」お前も信じてなかったのかよって。信じてやれよ、たった一人の幼なじみだろう。ですから、この正吉さんは修行に明け暮れるお小夜を見ながら「こいつ、なにやってんだろう」と思ってたんですね、この人は理解者ではないんです。こうなってくると。じゃあ、正吉はお小夜のどこが好きなんだってことになって、容姿だろうかという結論になるわけです。一族の誇りを捨てて正吉と生きる決心をしてお小夜の行く末が心配であります。正吉さんはラストでも、土佐にはいられないだろうし今後どうするのかと心配する石松に「讃岐の国に親類がいるんで頼ってみようと思います」などと言ってのけます。いねえよ、他国に親類なんか、あんたは何者だよ

まあ、生の舞台なのであら捜しをしようと思えば、いくらでもできるということで普通に1回だけ観に来るお客さんは十分楽しめるお芝居だったとは思います。私などは複数回観るにあったて感じた疑問などを次の回で解決しようと意気込んで観ても、結局同じところで引っかかっちゃうのが悔しかったので、感想として挙げさせていただきました。どうにも、お小夜の変心の理由がよく掴めず、恋に目覚め、使命を捨てた弱い女にしか見えなかったのがちょっと残念だったというわけです
コメディですし、そんなに考える芝居ではないのかもしれません
とにかく、笑いどころは満載で1時間45分退屈しない舞台でした

個々の役者さんについて
岸野幸正森の石松はライフワーク的な役みたいです、今回の劇中にあった、駄々っ子石松や、男同士の接吻などはお約束の場面みたいです。演出・主演を務めるだけあった、堂々としたオーラを感じました
関俊彦・今回演じた坂本竜馬はかつてアニメで演じた事もある人物とのことで、まさにはまり役。ハツラツとした若侍の演技は素晴らしい。女装などのコミカルなシーンを愛嬌たっぷりでおもしろかったです
渡辺菜生子・破天荒な武家夫人、無茶苦茶な口の悪さにもなんとなく気品を感じさせるあたりはさすが。お小夜を思いやる温かみも感じ入りました
くじら・この方はすごかった。公演中にも書きましたが、なにしろ狸のおっさんにしか見えない。金太郎やガラスの靴などのコスプレもすさまじく、出てくるだけでも面白い憎めない悪役。
磯部由江・八百八狸の頭の女房役。序盤であげる悲鳴や、終盤の「偽者だってそういうさな」のセリフ回しが私のお気に入りでした
大倉正章・岸野組の中心的な役者さんみたいです。セリフ、アクション共にさすがに舞台中心に活躍されている方だと思いました。しかし、いかに舞台とはいえ、おじさんにしかみえないおじさんが若者の役を演じるのはどうかと・・・看板役者ならオリジナル脚本なら、なおさら適役があったんではないかと思うのですが。まあ、これはお小夜との恋役はムカつくとの単純な嫉妬からきている感情なので、だれが演じても文句を言ってたんだと思います。お小夜を思う正吉かっこよかったです
荒木舞子・キラキラした瞳で狸を演じる荒木さんは本当に魅力的でした
飯塚雅弓・目当てで観に行った役者。そしてもっとも敬愛するタレントであるので、少し厳しく書きます
正直、演技については期待はずれでした。これは特殊な役柄による制約もあったのかもしれませんが、いつものアニメでの演技に見られるような一本調子の演技で情感がまったく感じられませんでした。表情の作り方なども他の役者さんたちと比べて、あまりうまいなとは思えませんでした。お芝居ですから、お小夜はああいう人なんだよと言えばそうなんでしょうが、もっと、いろんな表情が見れる役をやってほしかったですね。だだし、文字どおり舞台の華としてヒロインとして光り輝いていたことは言うまでもありません

最後ですがこの舞台でお小夜ちゃんのセリフに日替わりの箇所がありました
八百八狸が本物のお小夜か確認するために出す「お小夜ちゃんクイズ」の回答です
質問は
「好きな食べ物は」
座右の銘は」
の2つ
私が覚えている回答は、該当のエントリーに追記していきます